海外進出101

アメリカの採用プロセスと採用活動成功のための5つのポイント


アメリカにおける採用プロセスは日本と大きく異なります。

例えば、人中心で採用する日本と比べて、アメリカではポジション(職務)中心に採用が進められる。支払う給与額も会社への勤続年数ではなく、採用するポジションごとに設定するなど、アメリカ独自のルールに留意して採用活動を進めていく必要があります。

また、アメリカで採用活動をする上で、必ず留意しておかなければならないのが従業員の訴訟リスクの問題。アメリカの保険会社Hiscoxの調査によると、平均して10.5%の従業員からの訴訟リスクがあります。日本企業の進出先として人気のカリフォルニアでは46%を超える訴訟リスクがあるという結果が出ました。

また、集団訴訟に発展した際の和解金は1.2 Billion (1200億円)にものぼるとされ、アメリカで採用活動を行う時にはリスクマネジメントも視野に入れる必要があります。

本記事では、アメリカでの採用活動の方法をプロセス別でご紹介し、いかに訴訟リスク抑えて採用活動を行うかをご説明していきます。記事の最後に「アメリカでの採用のポイント5つ」をまとめましたので、そちらも併せてご参照ください。

アメリカにおける採用プロセスの流れ

まずは以下に、採用活動の全体像を示します。

米国における採用プロセスの流れ

以下では採用プロセスの「計画・準備」「募集」「面接」「バックグラウンドチェック」「内定・入社」についてご紹介していきます。それぞれのプロセスで留意しておくべきポイントもまとめましたのでご確認ください。

計画・準備

日本の特に新卒採用においては、人材を特定したポジションではなく、総合職として採用し、採用後、詳細な業務内容を決定する傾向にあります。また、中途採用や報酬制度においても「これくらいの経験やスキルであれば社内規定に基づきこの給与」という考え方に基づき行われます。つまり、日本では「人」を中心に採用や報酬が決定される傾向にあります。

一方でアメリカでは「ポジション(職務)」が軸となります。採用においても、報酬制度においても、明確なJob Descriptionがあり、給与レンジが業種、地域、役職(仕事内容)によって決まっているのです。アメリカで採用を検討する際には、各ポジションの仕事内容の明確化や各ポジション、地域の給与レンジを元とした報酬制度構築が必要である点が日本と大きく異なります。

採用活動をする際、「採用の目的」が重要です。増員なのか?リプレースメントなのか? リプレースメントの場合は、これまでその業務を行ってきた社員の職務内容がそのままジョブディスクリプションとして活かせるので、比較的容易です。その一方で新規ポジション採用の場合、募集するポジションの可視化が鍵を握ります。例えば、現在のチーム構成のなかで、新しく雇う社員が何を担当するのかをはじめ、責任範囲やレポートラインを明確にしたうえで募集することが大事です。


募集

人材採用手段については、下記のような様々な方法があります。それぞれメリット・デメリットがあるため、自社の状況や採用目的などに応じて方法を選択するのをお薦めします。

自社募集

自社の人事部で採用活動を行うケース。この場合、自社で採用プロセスを全て担わないといけないため、時間と手間がかかる。

リファーラル制度

社員が知人を人事部に紹介・推薦する制度で、採用に繋がった場合は報酬が社員に支払われることもあります。企業によっては、技術者獲得のために1万ドルを支払う日系企業もあります。リファーラル制度は信頼性は高いものの、進出して間もない企業には適応しづらい一面もある。

カレッジリクルーティング

優秀な学生を採用するための方法。まずは大学と関係を構築しなければならない。

人材エージェント

地域の人材マーケットや商習慣に精通した人材エージェントを活用することで、自社の時間や手間が省ける利点がある。また、大量に採用する際、募集・選考から採用までを一元委託する(採用代行)ケースもある。


面接

日本の特に新卒採用においては、人材を特定したポジションではなく、総合職として採用し、採用後、詳細な業務内容を決定する傾向にあります。

米国では新卒採用は一般的ではなく、新卒、既卒問わず、ポジションの要件に満たす方であれば、応募が可能になります。また、募集後には、書類選考、採用面接と続きますが、特に面接が重要です。アメリカの法律や商習慣をよく知らないために、候補者とトラブルになるケースが多く見受けられます。

例えば、アメリカでは、「年齢」「健康状態」「出身地」「性別」「ビザの種類」「性的指向」「人種」「家族」などの質問が法律で禁止されています。EEO (Equal Employment Opportunities)により、採用をはじめ、昇給、昇進、異動、懲戒、解雇など雇用のあらゆる決定において、前述したような項目における差別が禁止されているからです。

すべての人事決定は、能力をはじめ、経験、勤務態度及び勤務成績など、正当な職務上の理由によって決定する必要があります。会社の意図ではなかったとしても、相手が不快に感じたり、面接時の質問がEEOで禁止されている項目を明るみにするような内容ですと訴訟になる可能性があります。

人事担当者は、文化や背景が異なることを理解したうえで、アメリカでのあらゆる事例を学び、後日トラブルにならないような質問を準備しておくことをお薦めします。

具体的には、面接における質問のポイントは2つです。「何のために聞くのか?」、「その質問は業務に関連するのか?」です。この2点を念頭に、質問を選ぶことをお薦めします。
日系企業における面接にてトラブルになりやすい質問項目としては、下記の通りです。

  1. 残業に関連して「性別、結婚、家族」について
  2. ビザに関連して「出生地、国籍」について
  3. 母国語に関連して「出身国」について

下記をご参照いただき、表現方法などを変えたうえで質問をしてください。

項目 してはいけない質問 してもよい質問
性別・結婚・家族 応募者の性別をほのめかすような質問。
応募者が結婚しているかどうかを探るような質問。
「子どもは何人いますか?年齢は?」
「子守がいますか?」
妊娠、出産、避妊などに関する質問。
配偶者や親類の名前や住所。「誰と(両親と)同居していますか?」
応募者が未成年の場合の両親の保証人の名前と住所。
もし親類の雇用に対するカンパニーポリシーがあれば、それの説明。「時間通りに働くことに支障をきたすような責任を持っていますか?」
出生地・国籍 応募者自身や両親、配偶者などの親類の出生地を尋ねること。
「アメリカ国籍ですか」もしくは親類の国籍を尋ねること。
採用前に応募者の国籍を証明するような書類(グリーンカード、パスポート等)の提出要求。
「採用後アメリカで合法的に働けることを説明できるものを提示できますか?」
出身国 応募者や応募者の両親、配偶者などの出身地を尋ねること。
「母国語はなんですか?」
「家では何語で話しますか?」「外国語をどのように習いましたか?」
「自由に書いたり、話したりできるのは何語ですか?」
「どの程度使えますか?」(この質問は応募している業務に関係がある時のみ使用可能)

面接後 バックグラウンドチェック

アメリカでは、面接後、採用オファー(内定)を出す予定の候補者に対してバックグラウンドチェックを行う企業が多く見られます。必ず実施する必要はないものの、学歴詐称や仕事に関わる犯罪歴、合法で働ける資格があるか等を企業としてチェックすることがその後のトラブルや訴訟(トラブルを起こした従業員を雇った会社への訴訟等)を防ぐために非常に大事です。

また、バックグラウンドチェックを行う際には全ての従業員に平等に行うポリシーを持つことも重要です。例えば、ある採用対象者にはバックグラウンドチェックを実施したにも関わらず、別の対象者には実施しないといった一貫性のない採用活動を行うとトラブルになりかねません。また、チェックを行う場合は、業務に関係がある項目のみが対象となります。

そして本人にはチェックする項目を必ず伝えるとともに、バックグラウンドチェック実施の同意書を事前にもらう必要があります。また、公平性を保つために、チェックは第三者機関が行います。


内定から入社まで

採用が決定したら、オファーレターを本人に出します。オファーレターの内容は、企業によって異なりますが、一般的な項目例として下記をご参照ください。

そして両者が合意すれば、内定→入社→入社後のオリエンテーションと一連の採用プロセスが完了します。もちろん、入社後には就業規則の提供をはじめ各種雇用に関する書類のやり取りなどが必要です。

オファーレターの内容例
  • 給与額
  • FLSAステータス(ExemptあるいはNon-Exempt) *1
  • 勤務開始、勤務時間
  • タイトル(職位)
  • 福利厚生
  • オファーレターの有効期限
  • At-Will(任意雇用)の表記 *2

*1 FLSA (The Fair Labor Standards Act)
雇用・給与に関する法律で、給与の平等や最低賃金、残業代などに関する規定

*2 At-Will
アメリカで基本となっている「at will」関係により企業と従業員の双方が保護されている。従業員はどのような理由でも、また理由がなくとも自由に企業を辞めることができる。同様に、企業もいかなる理由でも、あるいは理由がない場合でも従業員を解雇できる。

また、内定前に保険の契約をしっかり詰めておくことをおすすめします。

アメリカでの保険は次の2つのタイプに分けられます。それぞれのプランに対し、提供会社と取りまとめをする仲介会社(ブローカー)があり、ブローカーと契約することが一般的です。契約には社員2名以上が必要で、もし1名の場合は個人の保険に加入してもらう必要があります。(※1名からでも入れる保険もありますが、条件が悪く、ボリュームディスカウントがないので高い傾向があります)

「いつから保険を導入するのか?」、また「どのプランでどこまで会社負担とするのか?」を雇用前に予め決定し、採用者に事前通知をするとよいでしょう。

Property Casulity Insurance (損害保険)

  • 労災 (Worker’s Comp)
  • 火災 (Property)
  • 賠償責任 (General Liability)
  • 自動車 (Auto)

Health & Life Insurance (健康保険、生命保険)

  • Medical (医療)
  • Dental (歯科)
  • Vision (眼科、視力矯正)
  • Life (生命)
  • Short Term/Long Term Disability (短長期所得保障)



アメリカでの採用活動成功のための5つのポイント

最後にアメリカで採用を行う際に押さえておくべきポイントを5つご紹介します。

1.アメリカの労働市場をしっかりと理解し、給与相場を把握する

アメリカの採用で直面する日本との給与水準のギャップ。
日本と比べてアメリカ人の採用コストは高く、日本の給与相場で考えていると良い人材が見つかりづらくなります。

国税庁のデータ、Social Security、そして弊社が実施している Pasona N A, Inc.「Salary Survey Report」の2017年のデータによると、日本の平均年収は467万円に対して、$50,321.89 (およそ554万円)となります。

このデータを見ると、100万円ほどの差があるものの、そこまで大きな格差が無いようにも見えますが、このデータはあくまで平均値です。アメリカは地域と職種によりエントリーレベルの給与相場が大きく違い、エンジニア等の専門職を雇う場合はこの平均値以上の差がでる傾向にあります。

そのため、日本の給与相場を軸に考えるのではなく、現地の給与相場を理解し柔軟に採用活動を進める必要があります。

2. なんでも屋を雇うのではなく、職務内容を具体化してJob Descriptionを作成する

前述の通り、アメリカでは「ポジション(職務)」が採用の軸となり、職務内容が明確になっていることが重要です。

特にアメリカ進出初期は確保できる人員が少なく、様々なポジションを兼任できるような人材を雇いたいというニーズをよく耳にします。

日本だと職務内容をある程度曖昧にしておいても、社員は気を利かせて動いてくれますが、アメリカの場合は職務内容が明確でないと、パフォーマンスを発揮できないケースが多いです。

浮いたルーティン業務、専門業務に関しては、アウトソーシングを活用することによりリソースの効率化を測る企業が多いです。

逆にJob Descriptionを作り職務内容が明確であれば、各社員の評価基準を明確にすることに繋がり、それがアメリカ人社員のモチベーションに繋がり、高いパフォーマンスを発揮することにも繋がります。

3. 採用スピードは、2週間~1か月が一般的。面接後には早期のフィードバックを行い、雇用意思を表現することが重要

アメリカでの採用で重要になるのが、スピードです。

特にアメリカ法人で採用活動する際、適宜、日本本社の決済を待たないといけない場合、どうしてもスピード感が出せなくなります。

Robert Half によると、面接後に2週間以内に企業側から何らかのアクションがない場合、69%の候補者が興味をなくすと言われており、優秀な人材を雇う際は採用スピードがとても重要です。

採用スピードを上げるために、現地へ裁量を渡す、採用プロセスを簡略化する(Web会議の活用、最終面接のみFace to Faceにする)などの対策が必要です。

採用の留意点

4. 従業員雇用前に就業規則を作成し、雇用後署名を貰う

雇用前に就業規則を作成し、しっかりと署名をもらっておくことをオススメします。
その主な理由は雇用に関する訴訟リスクを防止するためです。

冒頭でお伝えした通り、アメリカでは平均して10.5%の従業員からの訴訟リスクがあり、日本企業の進出先として人気のカリフォルニアでは46%を超える訴訟リスクがあると言われています。

U.S. Equal Employment Opportunity Commission のデータによると、訴訟の主な原因は以下の通りとなり、1位は「報復」でほぼ半数を占める結果となります。

このような報復訴訟を防ぐための一つの手段として、就業規則があります。
万が一、報復訴訟で訴えられた時に、「不当解雇」として見なされないように主張を正当化できる書類として機能します。

また、就業規則だけでなく先ほどご説明したJob Description や業績評価の記録なども、就業規則と同様に役に立ちます。

5. アメリカの派遣社員の制度をうまく活用する

アメリカで従業員を雇用する際、採用コストやリスクを抑えるために派遣社員の活用は有効です。

アメリカの派遣制度は日本と異なり、派遣社員を事前に面接ができる、労働期間に制約がない、派遣社員を正社員として雇用できるなどのメリットがあります。

直接雇用をすると雇用主が福利厚生や労災に加入する必要があり、雇用コストは年収の1.3から1.4倍程度になります。

一方で、派遣であれば派遣先企業が負担することになります。また、試用期間中に解雇する場合でも、派遣の方が解雇に伴うリスクを減らすことができます。

そのため、試用期間中は派遣社員という形態をとって、これから本採用という際に、直接雇用という形態をとる企業様もいらっしゃいます。特に進出初期に、可能な限りコストとリスクを抑えたいケースに活用されることが多いです。

ただし、派遣社員の雇用は駐在員ビザの要件の一つである「現地雇用の創出」には該当しない点に注意です。
例えば、駐在員ビザとして使われることの多い E-2ビザの申請条件に「現地雇用の創出」があり、派遣社員の雇用はこの条件に当てはまらないため、駐在員ビザの取得計画とセットで考える必要があります。

弊社パソナは35年に渡って人材派遣サービスを提供しておりますので、御社の駐在員ビザの取得計画含めご相談可能です。


まとめ

アメリカでは、面接後、採用オファー(内定)を出す予定の候補者に対してバックグラウンドチェックを行う企業が多く見られます。必ず実施する必要はないものアメリカでの採用プロセスは、採用に対する根本的な考えの違いをはじめ、Job Description、質問の仕方やバックグラウンドチェックなど、各ステップに日本とは異なる特徴があります。

まずは採用プロセス全体の流れを把握し、自社の人事戦略を構築することが大切です。そのうえで、採用過程のなかでどこからどこまでを自社で行い、どこの部分をアウトソーシングするのか?など綿密な計画をたてることで、優秀な人材の採用と安定した事業遂行が可能になります。

最後に、弊社米国パソナではアメリカで35年にわたり、アメリカ現地の日系企業様の採用活動をサポートしてきました。
新卒者から専門職種、エグゼクティブまで、バイリンガル、マルチリンガルの優秀な人材を紹介する「人材紹介サービス」、貴社のニーズに合った即戦力人材を、必要な時期に必要な数だけ派遣することができる「人材派遣サービス」などを展開しております。

アメリカの採用に関するケーススタディも豊富にありますので、不明な点がある場合は一度、こちらの問い合わせフォームよりお問い合わせ下さい。


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