海外進出101

アメリカ基本情報

米国における従業員ハンドブック


「Employee Handbook(就業規則)は必要ですか?」とアメリカに進出している企業様からよく聞かれます。法律によって義務付けられてはいませんが、現地社員を雇用する際には、作成することをお薦めしています。就業規則作成は従業員管理や統制の上で重要のため、ほとんどの企業が作成しています。

Employee Handbook(就業規則)とは?

日本の就業規則のように、企業のポリシーや働くうえでの各種規定を分かりやすく統一して表現したものです。企業ポリシーを明確にし、全従業員を公平に適用するため、また職場環境の公平さを向上させるために役立ちます。

就業規則制定の目的

  1. 経営者と従業員のコミュニケーションを促進するため。企業理念や会社が目指すビジョン、また従業員に期待することを伝える役割を担う。
  2. 会社としてすべての従業員は平等であり、企業が従業員を公平に扱うことを明確にするため。一定ルールをつくることにより、誰もが公平に職場で活躍できるような組織づくりに繋がる。
  3. 会社と従業員のトラブルを防ぐため。就業規則がしっかりと作成されていて、ポリシーが公平かつ一貫性をもって活用されている場合、企業を法的リスクから守るツールとなり得る。

at will(任意の雇用)の関係

日本のように一斉採用が一般的ではないアメリカでは、絶えず人材が流動しています。社員に対して会社のポリシーをはじめ、職場規定、報酬と福利厚生、退職手続きなどを就業規則に記載し、社員に伝えることは組織を強くするだけでなく、個々のモチベーション向上にも繋がります。具体的内容としては、まず社長からの歓迎メッセージから始まるものが多く、また就業規則が契約書でないことも明記しています。「企業ポリシーを十分理解している」という同意を社員から得る目的で就業規則の受領証に署名をもらいますが、これは契約を意味するわけではありません。特別に規定されている場合を除いて、アメリカでの雇用は常に「at will(任意の雇用)」の関係を以ってなされるからです。

日本の雇用慣習と異なり、「at will」関係が基本となっているアメリカでは、これにより企業と従業員の双方が保護されています。つまり、従業員はどのような理由でも、また理由がなくとも自由に企業を辞めることができます。同様に、企業もいかなる理由でも、あるいは理由がない場合でも従業員を解雇できます。差別に関わる理由での解雇は法律違反となりますが、日本と比較して雇用関係は極めて自由度が高いと言えます。これにより、企業は柔軟に人員管理を行うことができ、従業員はキャリアアップのチャンスを求めて、より良い環境の企業へと積極的に転職をすることができます。

さらに、アメリカではこの「at will」関係を土台とした雇用関係であるため、一般的には企業と従業員の間では雇用契約書は締結されません(役員やプロジェクトベースの委託案件は除く)。また、期間の取り決めもなされないため、いわゆる無期雇用が前提となります。基本的には入社時に職務内容や給与などを記載したオファーレター(内定通知書)および就業規則を従業員に渡すことで両者の関係が成り立つと考えられています。このようなことからも、就業規則は企業姿勢や従業員に期待すること、また従業員であることの特典(福利厚生など)を伝えるコミュニケーションツールとして大変有効かつ重要な資料になるのです。


どのような内容が盛り込まれるのか?

就業規則の内容は企業によって異なりますが、前述の通り、社長からの歓迎の言葉をはじめ、会社の歴史、事業内容などを冒頭に記載。続いて企業ポリシーについては、従業員との雇用関係が「at will」に基づいたものであることを必ず明記します。加えて、ポリシーが「EEO: equal employment opportunity(雇用機会の均等)」に基づいていることや移民法への準拠、従業員が直接マネジメントに提言できる「オープンドアポリシー」、そして差別またはハラスメントの禁止などを記載します。

下記のような職場規定や従業員の行動については、分かりやすく、明確に書くことをお薦めします。

職場規定例

服装/出張/パソコンや携帯電話の使用/機密情報の取り扱い/利益の相反/人事記録と個人記録/私用電話/職場の安全/職場での勧誘行為/従業員の区分/試用期間/緊急事態の連絡/勤務時間、昼休み、時間外労働等/職場での職務内容のチェックなど

従業員の行動

麻薬とアルコール/職場環境の整理整頓/副業/懲戒処分/不適当な行為、行動/企業所有物の使用など

曖昧な規定ではなく、なるべく具体的につくると良いでしょう。また、就業規則はあくまでも規定のため、実際の運用や実行は現場マネージャーや管理者の責任となります。そのため、マネージャークラスを対象に、就業規則の理解促進や、管理や経営力を高める研修を実施することも大切です。

また、報酬方針と福利厚生制度についての記載も不可欠です。終身雇用制度や年功序列が存在しないアメリカでは、報酬に対する企業の方針を従業員に明確にすることが重要です。就業規則に記載する項目は全従業員に当てはまるポリシーであり、報酬に関しては給与支給日、時間外労働手当など、福利厚生に関しては付与内容と対象条件などについて明文化するとよいでしょう。なお、個別の給与額、残業代の有無や職務内容に関しては、就業規則ではなく、別紙のOffer Letter (内定通知書)やJob Description (職務内容記述書)に記載します。

さらに、雇用者は就業規則に拘束されず、また従業員からの不満や主張を回避できるよう「Disclaimer(権利の放棄事項)」を含んでいるケースも多く見られます。ディスクレイマーには、就業規則が契約ではないことを改めて明示したり、「at will」の再確認、また雇用者が雇用関係の条件を変更することができるなどが盛り込まれています。

最後に、これまで紹介した内容に加え、「就業規則受領書」を添付し、従業員からの署名と日付の記入を得たものを保管。人事問題が起きた場合には法的書類として提出できるよう管理することが重要です。


運営できてこそ活きるハンドブック

インターネットなどから就業規則のテンプレートを入手し、そのままハンドブックとして私用しているケースも見受けられます。ただ、なかには運用できない規定や項目もあり、もし企業がそれを遵守できない場合は逆手に取られるケースもありますので注意が必要です。自社の事業内容、社風、規模などに即した内容を作成することが大事です。

また、ハンドブックの内容については、「作成したまま10年近くそのままにしている」という声をよく耳にしますが、三年に一度の見直しが必要です。例えば昨今ではSNSの書き込みに関するルールなど、時代に応じて追記や修正が必要な項目が多々あります。また、州法は随時変わりますので、定期的に見直すことをお薦めします。

「自社のポリシーが適正かどうか分からない」や「表現をどこまで厳しく書くべきか分からない」というお悩みをよく伺います。弊社が毎年取りまとめている「アメリカ進出日系企業の給与及び福利厚生に関する調査結果」などをご活用頂き、スタートラインとして、業界や他社の水準の理解促進に役立ててほしいと思います。繰り返しになりますが、報酬や福利厚生は優秀な社員の定着にも繋がるため、就業規則作成は人事戦略に関わる重要な役割を担います。基準値を知り、法的なアドバイスを取り入れて頂きつつ、自社にあったポリシーを作成し、運営可能な就業規則をつくることが最も重要です。


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